国防軍は無力? 悲嘆に暮れる軍人やその家族

 怪獣との被害で犠牲を出した国防軍の各基地は、沈痛な思いに包まれていた。

「軍の訓練にはつねに危険がつきまとう。今までに、事故で死んだ仲間を何度か見送ってきた。だが、一度にこれほどの被害を出したことはなかった」

 怪獣に撃墜された戦闘機が所属していた、ヨコタ基地の同僚パイロットはそう語る。怪獣との戦闘で出撃した戦闘機部隊はそのほとんどが撃墜され、緊急脱出できた者もごくわずか。このパイロットも、わずかなローテーションの違いさえなければ怪獣攻撃に参加して、恐らく死んでいただろう。彼の表情からは、「自分が生き残ってほっとしている」「自分が生き残ってしまって申し訳ない」という2つの感情のはざまにいる苦悩が見られた。


 空防よりもさらに大きな犠牲を出したのが海防だ。巡洋艦「那智」を撃沈され、150名以上の死者を数えている。戦死者の家族が、説明を求めて泣きながら基地の人間に詰め寄る場面も見られた。

那智の生存者の1名は、匿名を条件に以下のように語った。

「私たちは、いざというときには自分の命を捨てる覚悟で軍人の任務に就いています。ですから『自分や仲間が死ぬかもしれない』という覚悟はあるつもりでした。ですが今回は絶対に割り切れません。なぜなら、私たちの攻撃は怪獣にまったく効果がなく、仲間もただの犬死にに終わってしまったからです。私たちにとっては死ぬことより、任務に失敗することの方がずっと怖ろしいんです」


 現在シナガワの町では、災害活動した国防軍による救援活動が続いているが、軍人に対する住民の失望感だけではなく、軍人自身の無力感もありありと感じられる。現場を取材中の記者は「何のための軍隊だ! 俺は何のために税金を出してきたんだ!」と言って、兵士に殴りかかった被災者の姿を目撃した。殴りかかられた兵士は、反撃することもガードすることもよけることもせず、ただ立ったまま殴られていた。


やりどころのない怒りに打ち震えているのは、決して被災者だけではない。