夏のスポーツ特集@ 格闘技ブームの影に深刻な人材不足

 男の中の男は何処へ行った!?

「ルール無用、ナンでもあり」の総合格闘技のブームに火が点いてから、もうかれこれ10年以上は経っているだろう。今ではすっかり大晦日の恒例行事になるなど、日本人の娯楽として定着した感がある。ということはつまり、国民の誰もが憧れる花形職業であるわけで、リングの上で戦うファイターは子供たちからは尊敬の眼差しで見つめられ、リングを降りて町へと繰り出せば女の子にモッテモテ。美人女優やアナウンサーとゴールインする選手も少なくなく、何ともまあ、羨ましい話ではある。そもそもなんでそんなに格闘家がモテるの? なんて話はまた別の機会に譲るとして、ここではそんな華やかな世界とは対照的に、古くからある格闘技ジャンルが存亡の危機を迎えているという話をしてみたい。

 まずはプロレス。かつては金曜日の夜8時に放送され、有名刑事ドラマと熾烈な視聴率争いを繰り広げていたりしたものだが、最近は深夜枠でも流してくれるかどうか……。プロ野球の放送枠が減り、人気凋落が叫ばれているのはよく知られた話だが、こちらはそれどころの話じゃないのである。ああ、当時の金曜日のあの放送局はよかったよなあ……。7時からは猫型ロボットのアニメ、7時半からは特撮ヒーロードラマ、8時はプロレス、9時はアクション現代劇、そして10時は殺し屋の出てくる時代劇! あんないい時代は帰ってこないのかね、まったく。――おっと、また話が逸れてしまった。失敬、失敬。とにかく“ガチンコ”の総合格闘技ばかりがもてはやされて、プロレスの様式美を理解しない輩が多くなったってのは、嘆かわしいことなんだって!!

 それからボクシングも、ちょっとヤバい。注目を集めているのはあの兄弟くらいで、あとは元世界チャンピオンがテレビのバラエティに出て、珍発言で笑いをとるのが関の山。まるで「ボクサー=頭がかわいそうな人」の図式がマスコミによって作り上げられたみたいで、これもいただけない。極限まで己の体を絞りきって闘ってきた男たちに対して、何たる失礼な態度かと! もうね、ボクサーを笑った奴は全員土下座して謝ってほしいね。

 最後に一番大変なのが大相撲。国技とは名ばかりで横綱にまで昇りつめるのは外国出身の力士ばかり。世間では謎の怪獣が暴れまわっている昨今だが、角界はとうの昔から荒されまくっていたのである。そもそも横綱とは単なるチャンピオンとは存在そのものが違う。心技体を兼ね備え、特に人格面において真に尊敬するに値する人物でないと、横綱を名乗る資格はないはずだ。外国人力士のすべてがそうとは言わないが、外国人横綱の品位のなさ、現役引退後の迷走など例を挙げていけば、頭を抱えたくなることばかり。もっとも、これは外国人だけに限った話でもないのだけれど……。

 以上の3つに共通する事実がある。それは、若い世代の競技人口・プロ志願者が激減していることだ。いずれも、プロになるまでにはつらい試練を乗り越えなければならない。それは総合格闘技でも同じことだけど、総合格闘技ならば世間の注目を浴びるし、尊敬されるし、女にもモテる。そういう目的があれば頑張れるとしても、自分の体をいじめにいじめ抜いた結果、何も栄光や名誉をつかめないとしたら、プロスポーツとしてどんな意味があるといえようか?

 この状況を脱出するのは容易ではないだろう。失ったイメージを回復することほど、困難な道はない。しかし、先達が作り上げてきた歴史を絶やさないためにも、各競技の経営陣には集客のための努力を今一度考え直してほしい。小手先の人気取りだけでなく、真剣に、見る者に感動を与えるものを提供する。それこそが急務なのだから。

 まずは日本に現われる怪獣を、その鍛え上げた肉体で退治してくれたら、一発で国民的英雄になれるだろうけど……さすがにそれは無茶か(笑)。