沈黙の町、被災地の現状

 「まるで、内戦下の第三世界のような状況だ」

 マチダ市の、怪獣の被害がもっとも大きかった地域は、犠牲者の捜索が終わった今も、瓦礫の倒壊の可能性があるために立ち入り禁止区画とされている。今回その区画の見学を特別に許可された、取材陣のひとりが漏らした言葉だった。

 取材陣は全員ヘルメットを着用し、さらに「絶対に、同行する兵士より前に出ないこと」と念を押された上での取材だった。ヘリコプターは、ローターが発生させる下降気流が瓦礫を崩してしまう可能性があるため、低空飛行はできない。そのため、地上からゆっくりと破壊のあとを眺める。そこはかつては活気のあった市街地のはずだが、今では軍担当者の説明の声と、車両のエンジン音以外は何も聞こえない。捜索活動が打ち切られた今でも、瓦礫の撤去現場からは時々遺体が見つかることがあるという。今も、この瓦礫の下には多くの遺体が残っているのだろう。まさしく沈黙した墓場だ。

 「爆心地」から離れた、仮設住宅が並ぶ避難場所では、さすがにさまざまな音が聞こえる。だがここでもあちこちで軍人や軍の車両の姿を見かけ、「戦争中の国」という雰囲気がにじみ出ている。

 さらに住民の表情にも疲れが隠せない。自宅、財産、職場を失い、将来には数々の不安。仮設住宅での生活も快適なわけがない。水道やガスなどのライフライン復旧もまだ完全ではないため、家を失わずに済んだ人も、風呂に入るため軍が作った野外浴場に並ばねばならない。軍医やボランティアの医師によって運営されている仮説病院には、ストレスが原因ということもあるのか、毎日多くの避難民が診察を受けに訪れるという。そこに活気という言葉はなかった。

 この町が、元の活気を取り戻すのはいったいいつの日だろう? 実のところ、いつふたたび怪獣が現れるかもわからないので、本格的な復興事業開始にGOサインを出すのが及び腰になっているともいう。活気のないこの被災地で今もっとも声高に叫ばれていることは、「ジアース」事件の真相究明を求める声なのだ。