『アフロサムライ』とは、イラストを中心に活躍する気鋭のアーチスト、岡崎能士氏原作のコミックで、ミニコミ誌「ノウノウハウ」で最初に発表された。2007年1月大手ケーブルTVチャンネルのスパイクTVによる全米放送が高視聴率のうちに成功したアニメーション企画(1話25分、5話完結のミニシリーズ)は、主人公「アフロ」の声優にサミュエル・L・ジャクソン(共同プロデューサーとしても参画)、他ケリー・フー(『X MEN2』)、ロン・パールマン(『ヘルボーイ』)などのハリウッド俳優も声優に迎え、音楽は「キル・ビル」のRZAを巻き込む一大企画として成立した。5月にはウォルマートなどの大手量販店でDVDが発売、2008年にはPS3とXBOX360でビデオゲームリリース予定、岡崎氏が新たに書き下ろしたマンガも米国での出版を予定、サミュエル・L・ジャクソン出演でハリウッド実写化企画も進行中である。

 もとはと言えば日本人の創造したキャラクターとアニメーションである「アフロサムライ」が、なぜ米国で熱狂的な支持を得たのか?それには二つの理由がある。 第一に「アフリカン」×「サムライ」という一見意表をつくコンセプト組み合わせが、米国人に、黒人がサムライになって闘うという究極のファンタジーを提供してしまったことが挙げられる。「アフロ」に表象されるアーバンヒップホップカルチャーのクールさ。今では世界中で通用する日本発のヒーローコンセプトとなった「サムライ」のクールさ。この2つの「クール」の融合を絶妙のバランスで成し遂げてしまった岡崎氏の「アフロ」というキャラクターが、数多くの米国のクリエイターを巻き込むこととなった。

 まずはサミュエル・L・ジャクソン。サミュエル・L・ジャクソンが偶然某ハリウッドエージェントの事務所で最初に「アフロサムライ」のことを知った時、他の俳優にこの企画を知られたくないのでそこにあった資料を全て持っていってしまったらしい。アニメーション制作のGONZOの関係者が始めてサミュエル・L・ジャクソンに会った時の彼の第一声は「俺は『アフロサムライ』にならねばならない(I have to be Afro Samurai)」であったそうである。岡崎氏は、最初にサミュエル・L・ジャクソンに会った時に、彼が「子連れ狼」のトレーナーを着て「スター・ウォーズ」の帽子をかむっていたのを一目見て、「この人は「アフロ」のことを分かっている!」と思ったと語っている。

 そしてRZA。彼は東洋と西洋の文化がフュージョンする「アフロサムライ」という作品において、ソウルミュージックとヒップホップミュージックの新しい融合と革新を提示すると語っている。RZAの劇伴は時として寡黙なキャラクターである「アフロ」の心情を雄弁に語っているように思えるときもある。アニメ本編エピローグでアフロとクマが対峙するシーンの劇伴「Fury in my eyes」の中で、RZA自身が唄う「俺の内に秘める父の怒りが、俺を復讐の戦いに駆り立てる云々・・・」という詩は、ストーリーとキャラクターへの感情移入を決定的にした、と北米のディストリビューターは熱っぽく筆者に語った。RZAは天才ミュージシャンであると同時に、偉大なコピーライターでもある。

 「アフロサムライ」が米国で熱狂的な支持を得た第二の理由は、「ジャパニメーション」の映像迫力にある。一重にこれは、アニメーション監督の氏と日本のクリエーターチームの功績である。木_監督は先に挙げた米国のトップクリエーターとがっぷり四つで向き合い、時として対立する日米のクリエーティブの違いを乗り越え、フィルムをエンタテインメントに仕上げてくださった。あくまでも作品の基本設計は日本側の主導で作られたが、主たる観客が北米のそれであるため、美術設定・小道具設定のデザイン周りでは米国人に「自分のための作品だ」と思ってもらえるように、細心の作業で仕上げてくださったのも木_監督の仕事である。

 このようにして、米国のクリエイターと日本の制作スタッフの共同作業として出来上がった「アフロサムライ」という作品が、今回日本で「逆輸入公開」される。筆者はプロジェクト発進当初に、この作品がシネマライズをはじめ全国で公開されることを夢見た次第だが、今回その夢が実現し凱旋上映されることとなった。米国人を惹きつけたユニークなキャラクターと木_監督率いる日本のトップアニメーターが完成させたフィルムの魅力を、日本の観客の方々にも楽しんでいただけることを切に願うものである。


(文責 沖浦泰斗 「AFRO SAMURAI」プロデューサー
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