| 19世紀の大河小説を大胆にアレンジした『巌窟王』の物語。古典で復讐劇で、しかもSFという複雑なる要素、次々と登場する魅惑のキャラクター、いずれも捨てがたいエピソードをどのようにまとめていったのか? 前田監督と脚本家チームに、その妙味について対談していただいた。 |
| 第1回 |
主人公の視点をアルベールに置くことで見えてきたドラマの方向性 |
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| ――まず、この企画の出発点からお聞きしたいと思います。 |
| 神山: |
僕が参加したときには「モンテ・クリスト伯爵をSFでやる」という話だったんですが、いろいろ相談しているうちに視点を変えることになりまして……。 |
| 前田: |
伯爵を主人公にしたピカレスクロマンを目指してスタートしたものの、この時代にそれを問う意味をずっと考えまして、あとに残っていく作品にしようとすると、なかなか難しいと思ったんです。特にTVシリーズは見続けるためにキャラに感情移入する必要がありますし。そこで主人公をアルベールに入れ替えて、視点を転換することを思いつきまして、同時にこれならきれいに終われると気づいたんです。 |
| 神山: |
SFとして際限なく話が大きくなっていく方向で進んで収拾がつかなくなりかけていたんですが、視点を変えることで一気に引き締まりましたね。もともと友達にも女にも裏切られて、全部失ったヤツが大金を手に入れて復讐にくるという話で、まるきり男の話なんですよ(笑)。でも、女性にも観ていただきたいというあたりで、高橋さんのご協力をいただくようになりました。 |
| 前田: |
『巌窟王』と言ったとき、コスチュームプレイとして時代錯誤を楽しむか、リニューアルして今のドラマとして成立するものにするか、選択肢がふたつありますよね。結局、その後者をとったわけです。一歩間違えば、伯爵って「使いきれないお金を手に入れてるんだから、もういいじゃないですか」って言われかねないでしょう。大富豪にしてストーカーみたいな(笑)。そういうところが、今の価値観だと消化不良になりかねないと思ったんです。 |
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| ――高橋さんはどの段階から参加されたのでしょうか。 |
| 高橋: |
監督が新しい方向にシフトしたころです。最初に話を聞いたとき、私は古典ものが大好きですし、時代背景を映像的に想像しながら読んでいくのを楽しみにしてますから、どう映像化するのか不安でした。でもSFで新解釈で主人公の目線を変えてみるということで、「ぜひ参加させてください」と。「誰々の演出による新解釈版」は、演劇でも大好きですから。 |
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| ――女性の視点からご覧になって、どう思われましたか。 |
| 高橋: |
私は監督と神山さんが第1話のために書かれたシナリオ10稿分を読みましたから、これぞ物づくりだという点にまず感心しました。最初のころ伯爵の視点で構想してからアルベール視点に変更したことで、ふたつの視点からみたストーリーが絡みあう作品に思えてきて、視野が広いと感じましたね。さすが10稿を重ねられただけあって、結果的に深みのある話になったと思います。 |
| 神山: |
もともと復讐の手駒あるいは対象だった人物が主人公になるので、光をまったく逆の方向に当ててなければいけない。でも僕は「復讐譚」がなかなか頭から抜けなくて、伯爵を主人公にして物事を考えがちなところを、監督や高橋さんをはじめ皆さんにずいぶんと軌道修正していただいたと思っています。 |
| 前田: |
伯爵は影の主人公で、そこは変りません。復讐がどこに向かうのか、作り手としては落としどころを見つけないといけないわけです。
ひとつの方向性は、観客に物を投げつけてすべての価値観をぶちこわしていくというストロングスタイルですね。もしくは感情移入してみて、自分だったらどんな気持ちなのか、考える終わり方。このどちらかしかないんです。後者を選んだのは、やはり時代性ですね。暴力、復讐、憎しみは最近クローズアップされがちですから、その上塗りをするような後味が悪いラストにだけはしたくなくて、そういう意味で復讐される側の目線が重要ではないかと考え始めたわけです。 |
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| (インタビュー構成:氷川竜介) |
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