Staff & Cast
Staff Cast Interview
スペシャル対談<シナリオ編>
山下友弘 神山修一 高橋ナツコ
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第3回 多彩で絡みあった要素を取り入れつつ24本で完結するラストを目ざして
 
――原作の構成は、どれくらい意識されていますか?
神山:  原作自体、いろんなエピソードから組みあがっていて、『ロミオとジュリエット』的な要素もあれば『砂の器』みたいな話もある。メロドラマから犯罪実話、ミステリーから人情話まで、あらゆる要素が入っているわけで、どれに焦点をあてたらいいか、迷うことも多いですね。一本筋を通すためには削ぎ落とさないといけないものの、カットするに忍びないエピソードもありました。しかも全24話という枠のなかで、きちんと終わらせないとならないですから。
前田:  原作の構成って後半になると「なぜこのネタでここまで引っ張るのかな」と、ちょっと気になってくるんです。原作者なりのバランスをとってると思うんですが、決着がついてない気もするんですね。その辺も見据えつつ、全体を組み直しました。でも、内容は濃いですよ。雰囲気を保ちつつ、うまい語り口でやりたいところですけど、実はパッパッと見せていかないといけないんです。
高橋:  純粋なオリジナルアニメではないので、24本分の構成を考えたとき、エピソードを捨てる勇気も必要なんです。よくできた原作ですから、そのあたりは難しかったですね。
前田:  人間関係の波紋が広がって、新たな模様ができあがってくるという原作なので、どこかを外せばいいという問題じゃないんです。
神山:  さまざまな因果が綾なして現在を作りだしているわけですから。
 
――注目のポイントをお願いできますか?
神山:  複雑な話を高速で気持ちよく観られるところでしょうか。前田監督のコンテが実にすっきりまとめられていて、多くの情報が一瞬で脳にインストールされるかのように作られています。こういう感覚の作品ってあまりないと思います。あと、繰り返し観ると、作り込んだ伏線に気づいていただけて、二度おいしいかなと。
山下:  いろんなバージョンのある『忠臣蔵』みたいに、「今度はこう来たか」といういろんな解釈を楽しんでいただけたらと。おそらくアルベールが主人公というのは初めてだと思いますので、こういう切り口があったのかという驚きを楽しんでほしいですね。
高橋:  私は「禁断の愛」というところが好きです。フランス階級社会のハイクラスの人々って、恵まれすぎてて欲望にストレートで、タブーがないんじゃないかと思うくらいでした。それと今回の映像を初めてみたときの感想なんですが、上品で下品、繊細で大胆。今までの作品以上に前田監督の美意識がいちばんよく見える気がします。
 
――ちなみにお勧めのキャラクターは?
高橋:  伯爵フランツくんが好きでしたが、今はアンドレアに行き着いてます。この時代の危険な香りをすべて身にまとってる人で、その危ない感じがたまらないです。次は彼の物語を書いてみたいです。
山下:  ダングラールって今の価値観で見ると、投資家ですから決して悪い人ではないんです。彼は経済のルールにのっとって繁栄して、自分の銀行を持つに至ったわけです。でも、ただひとつの汚点のために、過去から怪物が蘇ってきて復讐される側に回るという話なので、そんな各家の状況も楽しんで欲しいですね。
神山:  やはりエロイーズとかG公爵夫人とか、成熟した女性の魅力でしょうか(笑)。他ではあまり見ることができないキャラだと思います。ヴィルフォールとかフェルナンとか親の世代も魅力があるんですよね。欲望を超越してちゃんとした人に見えるんですが、ストーリーが進むと生々しい欲望がむき出しになってくるので、その落差が面白いと思います。
前田:  僕がいちばん思い入れしてるのは、実は主人公のお父さんのフェルナンです。いちばん格好いいのに、小心者で卑怯なので、いちばん身近に感じるんですよね。原作でも扱いがひどいくて、同情を禁じ得ないキャラですし(笑)。
 
――どうもお忙しいところ、ありがとうございました。
<まとめ> 古典のもつ普遍の力が、新時代の解釈で輝きを獲得す
  誰もが思う「なぜいま『巌窟王』を?」という素朴な疑問。その答えは、この対談の中で浮き彫りになっていった。多くの問題をはらみながらも、次の時代へ行こうとしているこの時期だからこそ、古典の力強い構成と、時代を超えて生き残ってきた「物語の普遍性」が必要なのだ。「人の本質は変わらない」という真理は、この新しいアニメーションの中にも継承されている。それを受けてどうするかは、全編を見終えたとき、ひとりひとりの観客の心中に明らかになるであろう。
(インタビュー構成:氷川竜介)
 
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